知らないところを少しずつ歩いて回って忘れないように一つずつ書いて残してドラマの話や音楽はそのまま何度も楽しめるのでいつも見ているその空と冷えた空気を吸い込んで恥ずかしい話を寂しい言葉をいつも通りの別れを嵌めた指輪が抜けるまで「気温の差が大…
再会には蠱惑的な悪魔が潜んでいる。禁煙三日目の彼は二本目に火をつけつつ、そう思った。ここ数日、運に恵まれないことが多かった。それはどれも些細なことで、どのような出来事かも思い出せない。けれど、そういう空気が漂っていることは解っていた。彼は…
「あなたはいい人だから、きっと幸せになれるよ」 耳慣れない二人称のせいか、その意味を理解するのに時間がかかってしまった。手を止めて、彼女に向かって言葉を返す。 「何、忘れさせたいの?今日のこと」 「ううん。それから先のことは興味ない。あなたの…
ひどい雨が止んだのは、あれから数時間後のことだった。この国で嘘みたいなニュースを信じきっていたのは、分別のつかない子どもと、何でも知っている狡い大人、そしてそれを待ち望んでいた彼女だけだった。彼女は終末論者でもなければ、心をバランスを崩し…
Q.5人に聞きました。回答は、5人それぞれに話し合ってもらって、一つにまとめてもらいます(どうしてもまとまらない場合は複数)。Q.1冬を迎えるに当たっての気持ち A1.毎年違う気がする。「今年はこれでいこう」みたいなのが終わったころに出来上がってる。…
船は繋がれなくてはならない。 馬は繋がれなくてはならない。 旅人は新しい街を見る度に安堵することだろう。 生きるためには身を一所に置くということが不可欠なのだ。 居場所を求めてしまうのは人間の本能なのだろうか。 愛を語るのはただ一人で、母に代わ…
もし君が「死が二人をわかつまで」にロマンを見出すとしたら、どういう結末だと思う? ふと思い出して便りを出したら死んでいた時くらいね。 にべもないな。 ロマンは嫌いなのよ。私たちはそうしましょう。 それが良いのかい。 さあ、でも、あなたに見せる死…
雨の日 部屋 蛍光灯 窓 髪 紙 フローリング ブランケット ポット 音 瞼 時間 音 手足 眺め 鬱屈 秘密 うねり 拍動 お休み 昼食 ハンドクリーム OFF 車 コップ キス 音 元素 青 珈琲
苦しもうと訪れるものは戦争、平和を望めど意思は消えぬ、ついぞ闇が勝とうと星は死なぬ、それで良いと言える夜のうちに、首を締める振りをして、馬鹿にしたように下卑た笑いで蔑む君は、終われば楽になるだろうと突き放し、終わるまで終わりを思い恐怖する…
男がいる。 大量の白い紙がこすれあう音がやたら響くほど、それに囲まれた男。 歩みをそちらへ向けると、火が燃えている空気の変化に気づいた。 男は、真っ白な紙を無感動な目で、赤や青や、様々な色に染めていた。 染めては火の中に放り込む男の顔に見覚え…
染め上げた唇から突いて出るのは 慣れたのか慣れぬのか詰まらないことばかり でもその貪婪な様は、私が霧がけた心を闡明する ああいやだ、よしてください 恬淡な光を放たせた目も、 それを保てなくなるでしょうに やめてください これではまるで、僭する惨め…
グライスの協調の原理 ポール・グライスは言語表現が間接的に果たす機能を説明する協調の原理を提案し、今日の語用論の基礎を作り上げた。協調の原理は、次の4つの会話の公理からなる。 量の公理 - 求められているだけの情報を提供しなければいけない。 質の…
知らなかったのだ、私は何も 知れなかったのだ、私は何も 知ったかぶる素振りを出来ることなど少しもないほど 答えのないものをいつまでも愛せる馬鹿のままでいるなら幸せだったろう ところが人は優しく、 あなたの幸せを、と言った 確かに私の幸せはそこに…
人生で、一度も訪れることがないであろう場所に思いを馳せながら、久しぶりの煙草に火をつける。 そこは、人工的な青と、自然が調和した世界。 悲しみも、後悔も、死でさえも踏み入ることができない空間。 その光景は、あなたが眼を瞬かせると同時に現われ、…
秋雨に合わせてさめざめとしてみたが飽いた。 秋色に合わせたスカートを大事に仕舞ううちに紅葉も落ちた。 得る以上に失うことの早さを辟易もせず、穏やかな目で見えているものはそう多くはない。 頭に響くのは、夏の去る音でもなく、冬ざれの乾いた風でもな…
おかしなことを言う。 本来直視できなかったものが実に軽率になっていく。 肌に吸収される潤いの瑞々しさとは程遠い浸透を見せる。 履き違えるし、為違える。 過ぎ去るものだろうと考えることさえなく私が眠る夜に、清々しい決意がなされていたのかもしれな…
この9月には、小さな二つの別れと、ひとつの大きな別れがありました。 しかし、私はそれを何かに記すことが出来ませんでした。 それほどまでに、私の筆は錆びついていたのです。 だから今日、新しいペンを買いました。 ペンだけではありません。ノートと、地…
──秋口。夜の森を走っている。その闇の深さたるや、想像していたよりも遥かに深い。息を切らしている。勝手知ったる庭のように駆けることが出来るのは、そこが一本道だからである。涙を浮かべている。ここを抜けた先については何も知らされていないし、あと…
畏れ多くも自ら求めたものが例えば甲斐甲斐しさだとしたら 恐らく君が知らずに望んだものは雄々しさだろう しかしそうなればなるほどに 見えざる君の更に望ましくないさまは 私をまたひとつ嫌な大人へと段階させるので 求めるものはなきしにもあらず ただた…
未来に生きる自分を思い描いてみると、それはいつも秋か冬で、曇りか雨だった。 どうやら今の季節は、僕からとても遠いところにあるらしい。 一方で、過去を振り返ってみると、当然のことながら、すべての季節においてその情景や空気の匂いが思い出される。…
「硝子は液体だという論がある。私たちの目に見える範囲に於いて、それは全き固体であって、他の相では現れ得ない。しかし高温で溶解した場合には、それは本来の姿を取り戻す。つまり、私たちの目の前に於いても、液体として現れる。 自身の形を捨て去ること…
空気に触れるだけで懐かしさを感じる暮夏の候に、 新たな境地を強く感じている彼女と全く心が交えることもなく、 忙しく平凡な毎日に汗を流すのも良し、変化の感じられない距離という意識に気付かぬのも良し、選択し淘汰される世界で、しがみつく必要さえな…
新しい靴、親しい声。 雑踏はいつもと同じように僕を受け入れてしまう。 足もとを見ないように気をつけた。 誰も僕を見ないというのなら、僕も僕を見ない。 それでも、足跡だけはこの背中を見つめている。 僕を離れた、遠い遠い目線。 それが何を期待してい…