broken

「硝子は液体だという論がある。私たちの目に見える範囲に於いて、それは全き固体であって、他の相では現れ得ない。しかし高温で溶解した場合には、それは本来の姿を取り戻す。つまり、私たちの目の前に於いても、液体として現れる。
自身の形を捨て去ることによって生まれ変わるというのは、随分と潔いものだと、そうは思わないかね?」

男は語り、少年が睨んだ。
少年はその痩せ細った腕を乱暴にしならせ、枕元にあったグラスを払いのけた。
身を竦めてしまうような音、破壊と離別の音が病室に響く。

「溶解ではなく分解か。君の目で見てごらん。自分の手で確かめてみるんだ」

少年はその手に破片を握らされて、忌々しさを指先に伝わらせた。
燃えるような怒りが冷たい痛みに変わる頃にはもう遅かった。

「壊れてしまった硝子はこんなにも凶暴でありながら、いまだ仮初めの姿に留まっている。何度その身を打ちつけても、それは変わらない。或いは数千年、果てのない時間をかけて、液体へと還るその時を待ち続けるか?選ぶのは君だよ。窯の火種が、いつまでも点っているとは限らない。」

扉の向こうに影が消えた。
痛みを伴った少年は一人きりの部屋で、いくつかの疑問を持ち、いくつかを諦めた。