luck

再会には蠱惑的な悪魔が潜んでいる。
禁煙三日目の彼は二本目に火をつけつつ、そう思った。
ここ数日、運に恵まれないことが多かった。それはどれも些細なことで、どのような出来事かも思い出せない。けれど、そういう空気が漂っていることは解っていた。
彼は運というものを信じていた。タロットを携帯し、毎朝の星占いを気にして、時折手相を眺めていた。
しかし、彼は現状を知るのみでそれを変えることには一切の興味を示さなかった。風水を学んでも家具の配置はそのままで、占い師のアドバイスは聞き流すのが常であった。余談であるが、その占い師は彼の知り合いでもあったため、躍起になって彼の未来を危うげなものとして扱い、ついには寿命があと三年だとデタラメを言うまでになった。
占いは、彼にとって賭け事のようなものであった。その内容がどんなものであれ、当たれば嬉しく、外れれば悔しがった。その趣味を誰かに話すことはせず、一人でこっそりと楽しんだ。それが広く理解されるほど立派なものではないという分別くらいはつく人間である。
彼は自分の未来を良いものにしようとはしなかったが、占いの結果を現実に沿わせるために様々な理屈をこねた。
今朝の蟹座は「久しぶりの友人と再会して大盛り上がり!?」であった。