雑記−左右無し−

もし君が「死が二人をわかつまで」にロマンを見出すとしたら、どういう結末だと思う?
ふと思い出して便りを出したら死んでいた時くらいね。
にべもないな。
ロマンは嫌いなのよ。私たちはそうしましょう。
それが良いのかい。
さあ、でも、あなたに見せる死に顔を私は持たないと思う。

夏に出会ったものと、夏との相性が悪いと彼女が気付いたのは、おそらく二度目の秋だった。
その年に出会ったものは、等し並という顔つきで望むことの出来ないような、ただ、開襟シャツから覗く頼りない腕を見た時の情念を振り払うほどではなく、それどころか呼び水になるような肝要なものたち。
大事にせざるを得ない自らの感情に反して、逃げる以外の術を知らぬと主張したがる彼女の体は、すべて明らめるに越したこと無いほど素直な反応を見せる。唇を舐めずにいられないほどにすべてが濕りを奪っていく。
彼女の生温い声で漏らされる共時的な「好き」という言葉も、以来まったく聞けぬようになり、目付きの変化した表情に朝な夕なと気を揉まされたが、それももう仕舞いだ。
「頭に浮かんだ言葉を喉に通したら通すだけ、ただ無意味だったと知らされるような場所に、強く居続けられるほど私が唯唯ではなかっただけのこと」
奇特であるが、ずいぶん頑愚である。そう嘲罵されたかったろう彼女に対して、そのようなことを最期まで決して出来ることはなかったが、敬意を表していま言うならば、君の説こうとした愛に意味なんぞはなかった。自身の艶然にも汚穢にも耐えられぬ徒波だけは格別にお似合いだ。
長々と墓前でそう語るが、さぞかし朗色濃い顔で辞世を読んだのだろうと思えば、機微を知る君がもういないことを純粋に悲しめると、そう思った。